薬草タバコ

吐くことはもどすこと

 15年ほど前、海外に滞在していた折のこと。

 その国はネット事情も悪く、今のようにWifiなどなかったので、LANハウスで作業をしていたところ、日本の知人から来ていたメイルに気づく。

 そのメイルの内容は、私とは関係ない二人の恋愛相談だったのだが、その内容の波動が著しく良くなかったのだろう。文面から伝わってくる文霊(ふみたま)を観じていると、自分とは関わりがないとは言え、胸がむかむかし始める。やがて激しい嘔吐感、LANハウスから出た私は、路上で何度もえづいた。

 嘔吐はしなかったものの、何度もオエーオエーと苦しんだのを今でも覚えている。

 これは私が体調が悪かったとか、敏感だとかという話ではない。

 人は、例えば気持ち悪いものを見たり感じると「気持ち悪く」なる。映画やドラマで、死体を見た刑事なんかが、吐き気を催すシーンが分かりやすいだろう。つまり、人は、気持ち悪いものを見たり感じると、吐く。悪いものを食べても吐く。

 アヤワスカを始めとしたメディスンセレモニーでは、まず嘔吐を伴う症状が表れる。ちなみに、ヒプノセラピーなどのセッション中に吐く人もいる。これは、トラウマや過去の心の傷を抑圧してきた「気持ち悪さ」が反応していると考えられる。

 アヤワスカからは、これを、「心のトゲ」と教えられた。この気持ち悪さを腹の中に収めていない人などいないだろう。ごく一部、赤ん坊のような精神状態で大人になれた人は、反応しないのかもしれないが、人は生きていれば、なんらかの心のトゲは刺さっているもの。トゲをそのままにしていては、なかなか前に進めない。足枷を増やしながら歳を重ねるばかりになる。そこで、その自分が抱えている不調和を、吐き「もどす」ことでリセットする。

 タバコセレモニーでも、激しい嘔吐を繰り返すが、それは自分をゼロポイントに戻す通過儀礼のようなものとも考えられる。タバコセレモニーは、決してアヤワスカの前哨戦という位置付けにはない。薬草タバコの世界は奥深く、時には中毒症状が緩和されたり、ビジョンを見る人もいる。当会で、わざわざ「タバコセレモニー」と銘打っているのは、この通過儀礼を「儀式」と考えているからに他ならない。