アヤワスカ

内観法とアヤワスカ3-1

 自分の体験で恐縮ですが、20代の頃、仕事で行き詰まり、数ヶ月ひきこもってしまったことがありました。当時、ひきこもりという言葉も一般的でなく、自分でもどう対処していいかわからず、苦しい日々が続きました

 ある時ふと、家の階段を眺めていると、黒い影、もやのようなものがものすごい早さで駆け上がっていくのが見えました。幸運にもその黒いもやは私のほうには向かってきませんでしたが、もしその黒いもやが私を攻撃していたら、何が起きていたのだろうと考えることもあります

 相談できる友人もおらず、両親はそもそも心の問題には疎いほうで、私は孤立を深め、本ばかりをむさぼり読みました。心理関係の本を読んでいると、内観法という言葉に出合います。外に出たくない自分には、この瞑想はとっておきで、しばらくやってみることにしました

 吉本伊信氏が創ったこの瞑想は、きわめてシンプルで、自分の記憶している限りの幼少期にさかのぼり、3つのことを思い出していくというものです

①人からお世話になったこと
②人にして返したこと
③人にご迷惑をかけたこと

 まずはお世話になったことから始めるのですが、両親にしてもらったことがベースで、母親が作ってくれたお弁当の内容から、こたつでミカンを剥いてくれたエピソードなど、事細かに思い出していくというものです

 幼少期からの一分一秒を思い起こし何度も掘り返す地道な作業は、時間の無い現代人には難しいのでしょうが、引きこもっていた私にはむしろ時間を潰せるありがたい方法だったのです

 あるとき、真夏の夜に、川のそばで内観していたところ、蚊が一匹も寄ってこなかったことがありました。そのとき、とめどなく流れる涙に自分が癒やされていくのが実感でき始めていました。気づくと2時間が過ぎていましたが、私は自分のなかに、ゆっくりと静かな歓びが湧き上がってきているのを感じました

 翌日、街に出て本屋に行くことにしました。人通りの多い繁華街を歩いていると、不思議な光景に気づいたのでした